聞文読報

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9月16日 水上貴央(公述人 弁護士)の意見陳述(全文) 参議院『平和安全特別委員会・横浜地方公聴会』

※平成27年9月16日、参議院『平和安全特別委員会・横浜地方公聴会』より

弁護士の水上貴央でございます。よろしくお願いいたします。

さて、公聴会とは、国会法第51条に法定された正式な会であり、特に重要な法案については、重要な利害関係者や学識経験者等の意見を聞いて、慎重かつ充実した審議を実現するためにあるものと理解しています。

わたくしも昨日、中央公聴会を拝見させていただきましたが、元最高裁判事の濱田先生が、まさにこの法案を明確に違憲と断じ、さらに今後、裁判手続きにおいて違憲無効判決が出ることについても示唆されるなど、極めて重要な意見を述べられたと考えています。奥田公聴人の素晴らしいスピーチに、心を動かされた方も多かったのではないかと思います。

まさに多くの参酌すべき公述がなされ、集中審議を含め、最後まで審議を尽くすべきこのタイミングで、その後の理事会において、本日、このあと、さらに審議をされ、取りまとめ、終局という審議日程が強行されました。

わたしは一介の弁護士にすぎませんが、それでも業務の予定を変更し、この場に来ています。本日、臨席されている公述人の方々も、あるいは昨日来られた公述人の方々も、それぞれたいへん忙しい方ばかりです。そういった人たちが、日常の仕事を調整してまで公聴会に参加しているのは、ひとりひとりの国民が、民主主義の一端を担っているという自覚からです。公聴会で公述することが、より実のある審議に資すると考えるから参加しているんです。

わたしは昨日、中央公聴会を拝見し、この国の民主主義に希望をもち、一方、そのあとの理事会の経緯をみて、この国の民主主義に絶望しつつあります。公聴会が、採決のための単なるセレモニーにすぎず、茶番であるならば、わたしはあえて申し上げるべき意見を持ち合わせておりません。

委員長、公述の前提としてお伺いしたいのですが、この横浜地方公聴会は、慎重で充分な審議をとるための会ですか。それとも、採決のための単なるセレモニーですか。

鴻池委員長

この件につきましては、各政党の理事間協議において、本日の横浜の地方公聴会が決まったわけです。その前段、その後段については、いまだに協議が整っておりません。

是非とも、公聴会を開いた甲斐があったといえるだけの、充分かつ慎重な審議をお願いしたいと思います。

それでは、意見を申し上げたいと思いますが、すでに、たいぶ持ち時間、過ぎてしまいました。わたくし、資料④ですね。本当はきょう、申し上げたかった原稿をお示ししてありますので、是非、そちらをご覧いただきたいと思います。ここでは、特に重要な点に絞って、時間のかぎり、お話したいというふうに思います。

まず、後方支援に関する問題についてお話します。

この法案は、重要影響事態における後方支援として、世界中の戦闘地域に隣接するものも含めた、現に戦闘が行われている現場以外において、発艦準備中の戦闘機に弾薬の補給等まで行えるというようにしています。この行為が武力行使に密接な準備行為であり、武力行使との一体化として、憲法第9条に反するのではないか、というのがここでは問題になっています。これを考えるにあたっては、逆に日本が攻撃されている場面を考えてみることが重要です。

資料①の5ページ及び6ページをご覧ください。

まず5ページは、我が国に対してA国が攻撃をしてきている場合。具体的には、我が国に対してA国の航空機・爆撃機が、ミサイルで攻撃をしてきて、ミサイルを撃ち終わった航空機が再び、我が国の公海のすぐ外の、我が国の領海のすぐ外の公海で、補給艦で補給を受けるという場面です。

これは、A国が爆撃機で攻撃してきて、A国の補給船がそこに補給をする、弾薬を補給するという場面ですから、政府の説明でも、当然に個別的自衛権を行使できる場面だというふうに説明がされています。

次のページ、6ページをご覧いただきますと、このA国が行った補給艦の部分を、B国が行ったらどうなるかという事例になります。

これについては、国際法上の常識から考えれば、当然にB国に対しても、少なくともこの事例、爆撃機に対して弾薬を補給して、ただちにその爆撃機が再び日本に攻撃しにくるという事案においては、B国の補給艦に対して、個別的自衛権が行使できるはずです。

というのは、このような、武力攻撃とまさに密接不可分な行為をおこなう行為は、もはや中立国の行為とは認められず、この国、B国自体が交戦国となってしまいますから、国際法上は、B国の補給艦は軍事目標になります。したがって、当然に個別的自衛権が行使できるはずです。逆にいうと、これができないということになると、日本はずっと攻撃され続けてしまうということになります。我が国の安全保障が極めて深刻な影響を与えられるということになります。

ところが今回、政府は、このような場合のB国に対して、反撃できない、自衛権行使できないという答弁をされました。これ、どういうことかというと、その次のページ、見ていただきますと、今度は、このB国の立場が日本になった場合どうなるかという話です。

つまり、たとえばアメリカがA国の立場になり、その補給をする国が日本になった場合に、日本は、その当該、アメリカから攻撃を受けてる他国から、個別的自衛権を行使されますかという時に、個別的自衛権が行使されるということになると、個別的自衛権の行使の対象は武力攻撃ですから、日本がやっているのは、アメリカと一体化した武力の行使だということになってしまいますので、日本は、この行為を武力の行使と一体化していないと説明をするためには、B国に対しても反撃できないというふうに言わざるをえないという状態になったんです。これは明らかに、全世界で、アメリカの武力攻撃を支援するために、我が国の自国防衛を犠牲にしたということです。むしろ、我が国の安全保障が重要だと考えるんだとすれば、このような法律を作ってはいけないのです。

一方で、そのことに対して追及された政府は、その後の答弁において、このような場合においても、やはり個別的自衛権が行使できる場合がある、B国に対して、という答弁をしました。答弁を変えました。このように答弁を変えるということ自体が問題ですが、今度は、もしここに、B国に対する個別的自衛権が行使できるとすれば、やはりこのB国の立場に日本がなった場合に、これは武力行使と一体化してるではないかという問題が生じます。つまり、違憲なのです。

どういうことかと申しますと、この法案は、実態において、違憲武力行使と極めて密接な準備行使を行い、それを隠し立てするために、我が国の個別的自衛権を犠牲にしている法案なんです。政府与党が、本当に日本の安全保障環境を重視し、我が国を守ろうと思うのであれば、どうしてこのような、違憲でかつ、それを隠すために自国防衛を犠牲にするような法律を作るのでしょうか。この法案はどこを向いてつくられてるのでしょうか。これがまずひとつ、重大な問題です。

もうひとつ、たいへん重要な問題が、自衛官による武器使用という問題です。資料①でいうと9ページをご覧ください。

本法案では、他国の武器等を守るために、自衛官が武器を使用して守れるという条文、これ、自衛隊法95条の2という条文にございます。この条文の主語は自衛官です。自衛隊ではない、国でもない、自衛官です。そして、この守ることができる対象になってる武器等には、艦船や航空機が含まれてます。イージス艦が守れるということになります。

つまりどういうことかというと、自衛官個人が、アメリカのイージス艦を武器を使って守るという、とんでもない規定になっています。このように、明らかに不合理な条文になっているのは、この行為を、もしも我が国自身がやっている、組織的にやっているということになれば、これは、明確に武力の行使だからです。武力の行使だと言われないためには、自衛官個人がやったということにしなければならないのです。しかし、条文に自衛官と書いたからといって、この行為の本質が変わるでしょうか。実際には、明らかに武力の行使です。

さらに申し上げますと、この場合には新3要件の縛りはありません。存立危機事態も認定されません。つまり、これは完全にフルスペックの集団的自衛権です。つまり政府はこの条文において、フルスペックの集団的自衛権を認めてしまっています。限定されてもいません。

以上により、この条文は明確な違憲条文であり、自衛隊法95条の2は、必ず削除しなければなりません。ちなみに申し上げますが、共産党等が提出された自衛隊の資料によると、この95条の2は使う気満々です。

さらに、このような不合理な規定をとったことによって、いちばん皺寄せを受けるのは、なんと自衛官です。どういうことかと申しますと、この条文の主語は自衛官ですから、もしも万が一、他国が自国の民間船を盾にして攻撃してきた時に、それを自衛官が守って、それが正当防衛や緊急避難を成立させない場合には、自衛官個人が責任を取ることになります。我が国の刑法、あるいは当該、攻撃をしてしまった国の国内法で罰せられる可能性があります。

自衛官は一方で、自衛隊法122条の2という条文で、上官の命令に従わなければ罰則が加えられます。自衛官は、上官の命令に従って、やむを得ず武器を使用した結果、正当防衛や緊急避難が成立しなければ、罰せられる可能性があるんです。これは自衛隊自衛官の皆さんに胸が張れますか。我が国を守ってくれている自衛官の皆さんに胸が張れますか。

このようにこの法案は、違憲の問題を抱えているだけではなくて、法律自体が「欠陥法案」であり、また、極めて不当な結論を導くような「不当法案」です。したがって、まずは政府は、改めるべきところは改め、しっかりと合憲の枠組みを作ることができるのかということを模索するべきです。

国会は立法をするところです。政府に白紙委任を与える場所ではありません。ここまで重要な問題が、審議において明確になり、今の法案が、政府自身の説明とも重大な乖離がある状態で、この法案を通してしまう場合は、もはや国会に存在意義などありません。これは単なる多数決主義であって、民主主義ではありません!

鴻池委員長

陳述時間を過ぎておりますので、簡潔におまとめください。

わかりました。

参議院がその良識を放棄したと国民に判断されないためには、今まさに、しっかりとした審議を尽くすべきです。「60日ルールを使われたら、参議院の存在意義がなくなる」などという方がいますが、参議院がその良識を放棄してしまったら、それこそ参議院の存在意義など国民は決して認めません。いまこそ、参議院の議員の先生方の良識に期待し、我々はそれを注視していることを申し上げ、わたしの意見とさせていただきます。

ありがとうございました。

発言者:水上貴央(弁護士)、鴻池祥肇(委員長)