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聞文読報

聞こえる言葉を文字に起こし、目で聴く読み物に変えて発信します。

9月16日 渡部恒雄(公述人 東京財団 上席研究員)の意見陳述(全文) 参議院『平和安全特別委員会・横浜地方公聴会』

※平成27年9月16日、参議院『平和安全特別委員会・横浜地方公聴会』より

このたびは、参議院〔平和安全法制に関する特別委員会〕にお招きいただき、ありがとうございました。わたしはこれまで、日本とアメリカのシンクタンクで、両国の安全保障政策を研究してまいりました。本日は、安全保障のいち研究者として、意見を述べさせてもらいます。

今回、参考人をお受けした理由は、今回の平和安全保障法制の審議及び新聞等の報道を目にして、現実と乖離した極端な議論が、心配になったからです。それは日本の民主的な安全保障政策の形成を損ないますし、また周辺国にも不要な警戒を与え、結果的に、日本の安全保障のためによい結果をもたらさないと思います。まず、国会での建設的な議論の前提として、日本を取り巻く安全保障環境の大きな変化を、共通に理解する必要があると思います。

現在の日本の安全保障の法体系は、1980年代までの冷戦期に対応してつくられたものです。現在の国際状況には、対応しきれていません。もちろん、日本がこれまで何もしてこなかったわけではありません。

1998年に北朝鮮の「テポドンミサイル発射実験」、こういう情況下で、1999年に〔周辺事態法〕が定められ、日本周辺の有事への対応も定められました。ただし、〔周辺事態法〕は、日本が集団的自衛権を行使しないという制約がございましたので、朝鮮半島有事などの情況で、米軍への後方支援を可能にするように定められたものでした。

また、2001年9月11日、米国での同時多発テロを受け、多国籍軍の対テロ作戦の支援を可能にするために、同年に〔テロ特措法〕が制定されて、多国籍軍アフガニスタンでの軍事活動を、インド洋での海上自衛隊の給油活動で支援することを可能にしました。しかし、これは2年間の時限立法であり、もし同じような行動が必要な場合、新しい立法が必要となり、タイムリーな措置がとれません。

アフガニスタンでの多国籍軍の軍事活動は、国際テロとの戦いでした。現在もシリア・イラクでの過激組織「イスラム国」の脅威が拡大し、日本人・人質2人が犠牲になり、ほかにも、日本人10人が犠牲になった「アルジェリア人質事件」、5人が犠牲になった「チュニジアでの銃乱射事件」など、テロの脅威は深刻化しております。

さらに、日本につきつけられた新しい状況が、尖閣諸島周辺に、中国が漁船や巡視船を送るようになったことで新たに認識された、いわゆる「グレーゾーン事態」です。もし、尖閣諸島に国籍不明の武装勢力が上陸した場合、明らかな有事ではない。でも平時ではない。「グレーゾーン」であって、現在の法律が想定していないために、適切な処理ができません。

今回の法制は、日本が自国をより確実に防衛すること、それから東アジア地域及び世界の安全保障関係を安定させるために行うべきことを、法的に担保するものだと思います。それによって日本の防衛能力を向上させて、平和を維持させ、日本を取り巻く環境を安定させて、日本が侵略されたり、あるいは軍事の圧力に屈するようなリスクを少なくするということが目的です。

冷静に考えれば、日本の限られた資源と防衛力だけで、日本の安全を守れないことは明らかで、米国という世界最強の軍事力を持つ同盟国との共同対処が想定されているからこそ、そうでない場合にくらべて、少ない予算とリスクで、自国の安全を確実に守ることができます。

今年1月、内閣府の世論調査において、〔日本の安全を守るためには、どのような方法をとるべきか〕という問いに対して、「日米の安全保障体制と自衛隊で日本の安全を守る」と答えた人の割合が82.3%もありまして、国民はその点はよく理解していると思います。

ただ一方で、国民の中に、今回の法案について不安があります。これまで平和を維持してきた政策が変わるわけですから、日本のリスクが増えるんではないかという、こういう不安があります。しかし、国際環境が変わってるのに古い想定のままだと、適切な行動がとれずに、むしろ日本の平和を損なうことになりかねません。

今回の法制の重要な目的のひとつは、日本の防衛及び東アジア地域の平和に極めて重要な役割を果たしている米国の軍事プレゼンス及び日米同盟を、より持続的で、安定的なものにするための一連の措置である、ということをわたしは理解しております。

1999年の〔周辺事態法〕は、朝鮮半島等の有事で、日本が米国に後方支援をすることを可能にする、ということを定めた法律でしたが、集団的自衛権を行使しないという解釈の制約があったために、限定されていました。今回の法制では、集団的自衛権を一部行使できるように解釈を変えて、米国や関係国により幅広い協力をすることを可能にしました。

この法律をもとにして、平時から、米国や関係国と共同訓練を行って準備しておけば、いざという時に同盟が機能するというだけではなくて、それを潜在的な挑戦者に見せておくことで、軍事攻撃をためらわせて、未然に防ぐことが期待できます。

先の世論調査から見るかぎり、多くの日本人は、日米同盟がいざという時に、日本の防衛のために機能してくれるということを願ってるはずです。では、法案の不安はというと、日本が望んでいないのに、日本の防衛と関係ない場合の、アメリカの戦争に巻き込まれることだと思います。これを国際関係論では、同盟に対する典型的な感情のひとつ、「巻き込まれの恐怖」と呼びます。この逆の恐怖を「見捨てられの恐怖」と呼びます。

日本人がいま考えるべきは、一方のリスクだけを見て、感情的に、情緒的に判断するのではなく、両方のリスクを勘案して、日本の平和にとって最善の策をとることです。今回の法案及び国際関係の現状を冷静に観察すると、日本の「巻き込まれのリスク」は、人々がいま不安に思っているほど大きくないと考えられます。

今回の法案では、集団的自衛権の一部行使は〔我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態〕、いわゆる存立事態ですね。それからもうひとつ、読みませんが、重要影響事態。この2つのケースのみに適用されるからです。

このようなケースとして考えられるのは、朝鮮半島等での有事ですけども、日本が、米軍や韓国軍などに適切な協力をせずに、事態が悪化すれば、日本にも戦火が及ぶことを覚悟しなくてはなりません。これは日本の防衛に限りなく近い情況ですから、このような情況は米国に巻き込まれるという心配をするケースではありません。

ただし、もし朝鮮半島有事の際に、日本が自国に閉じこもって協力をしなかった、それにもかかわらず、幸いにも事態が収束したとします。その時点では、日本は巻き込まれるリスクをとらずに日本の平和を保てたことで、一時的には得したことになります。しかしそのあと、アメリカから見れば、同盟国日本に対する信頼は大きく揺らぎ、その後の同盟が弱まる大きなリスクを抱えることになります。その場合における「見捨てられのリスク」はかなり大きくなると考えておくべきです。

さらに、日本が心配するもうひとつの巻き込まれのケースです。おそらく中東地域などで、日本の防衛とは直接関係ないところで、アメリカの戦闘に巻き込まれることかと思います。しかし、今回の法制では、国連PKOにしても、国際平和共同対処にせよ、武力行使が必要な戦闘ミッションに参加することは想定されておりません。たとえアメリカが日本に対して、「中東で米国主導の多国籍の戦闘ミッションに参加してくれ」という強い要請があっても、法的に参加不可能です。

そもそも、今のアメリカが日本にそのような強い要請をすることも想像できません。なぜなら、米国にはそれぞれの地域で、米国に協力する同盟国や友好国がいるからです。いまアメリカは、シリア・イラクで脅威になっている過激組織「イスラム国」に対して、イラク軍、クルド人民兵組織、シリアの反政府勢力など、協力して、空爆や特殊作戦を行っていますが、地域の同盟国であるサウジアラビア、ヨルダン、UAE、トルコなどが共同作戦に参加しております。

2003年のイラク戦争当時とは異なって、アメリカにとって喫緊の脅威とは、核兵器とミサイル能力を向上させている北朝鮮であります。それから最大の潜在的な脅威は、世界第2位の経済規模のもとに軍事力の近代化を進め、最近も抗日70周年記念で大きな軍事パレードを行った中国です。

オバマ政権は、ブッシュ政権が開戦したイラク戦争は、米国の国力を削ぎ、北朝鮮や中国に優位性を与えてしまった戦略的な間違いだと考えており、日本や韓国には、むしろ自らの防衛を強化し、地域での米国との安全保障協力を深めることを期待しています。その意味で、中東での米国の戦争への巻き込まれを過度に心配する必要はありません。

日米同盟も重要ですが、将来を見渡すと、日本は東アジア地域の国々と、平和を維持するための多国間の安全保障協力、信頼醸成措置、これを形成していく必要があります。今回の法案の〔国際平和共同対処事態法〕では、諸外国の軍隊等に対する、遭難救助、捜索救助、協力支援活動を想定しています。すぐには難しくても、今後、日本が、東南アジア諸国と安定した多国間の協力体制を形成し、中国を、その協力のネットワークに入れていくことができれば、東アジアはより安定します。これを、協力をしていけば日本は頼れるパートナーとして認知されます。今回、〔国際平和共同対処事態法〕は、例外なき国会の承認が前提ですから、日本人の主体的な意思として行っていく政策を、担保する法律だと思います。

最後に、現在の安保法制は専守防衛という憲法9条の精神を変えるようなものではありません。ただ、専門家からすれば「グレーゾーン事態」の対処について、まだまだ不備な部分が多くあります。ただ、武力行使の新要件により歯止めは充分だと思います。法律はいずれにせよ万能ではありません。国際情勢が変わったり、軍事力が変われば、変えなくてはいけません。

東日本大震災での津波原発事故。あるいは最近の集中豪雨。こういうのを見ても、我々人間は想定できることしか準備できないんです。それでも想像力を最大限に駆使して、想像できる最悪の事態に対処できるようにするということが、我々いまの日本人の、世界や、後世の子孫に対する責任だと思います。

ご清聴、ありがとうございました。

発言者:渡部恒雄東京財団 上席研究員)