8月28日 東京2020エンブレム 選考過程に関する記者ブリーフィング・質疑応答(全文) 『東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会』
※2015年8月28日、『東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会』より
記者会見
藤澤秀敏(組織委/広報局長)
それでは、時間がまいりましたので記者ブリーフィングを始めさせていただきたいと思います。東京2020エンブレムの選考過程に関する記者ブリーフィングです。
今日の出席者、ご紹介いたします。
東京2020組織委員会事務総長の武藤敏郎。そして、マーケティング局長の槙英俊です。日本グラフィックデザイナー協会特別顧問で、エンブレムデザインの審査委員会の審査委員代表を務められた、永井和正先生にもおいでいただきました。
それでは総長、お願いします。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
本日は皆さん、お集まりいただきましてありがとうございます。大会組織委員会事務総長の武藤でございます。
去る7月24日、大会5年前となる日に、東京オリンピック・パラリンピックの大会エンブレムを同時発表いたしましたが、ご存じのようにオリンピックのエンブレムに対しまして、ベルギー、リエージュ劇場より先方ロゴとの類似性の指摘を受け、現在IOCに対して使用差し止めの訴状が出ているという情況になっております。
大会エンブレムの選考を行い、著作権を保有しておりますのは、わたくしども組織委員会でありますけれども、訴追を受けているのは、IOC。裁判が実施されるのが、ベルギー、リエージュの裁判所であるという、きわめて特殊な状況下にありまして、エンブレムの選考にかかわる情報の開示については、ひとつひとつ、ベルギーでの裁判への影響を確認しなくてはならないということなものですから、皆さまにご説明するのが遅れてしまいました。この場をお借りして、この点につきましては、お詫びを申し上げたいと思います。
本日は、裁判を受ける立場のIOCとの調整をつけながら、むしろ、メディアの皆さん並びに国民の皆さまの疑問にお答えしていくことが、より重要であるという判断をいたしまして、審査方法の決定理由、審査のプロセスから大会エンブレムの決定までの経緯を、詳らかにご説明させていただきたいと思います。
では、はじめに審査方法の決定理由、審査のプロセスにつきまして、担当者の槙の方から説明させていただきます。
お願いします。
槙英俊(組織委/マーケティング局長)
皆さん、こんにちは。エンブレム選考を担当いたしましたマーケティング局長の槙でございます。
まずは今回の選考方法を採用した理由について、ご説明させていただきます。
1964年東京大会のエンブレムは、本日お越しいただきました永井一正先生を含む、6名のデザイナーによる指名コンペで、結果、ご覧いただいております亀倉雄策の案が選ばれました。
わたくしたちは、この亀倉雄策さんのエンブレムというものを目標に、彼がこのエンブレムに込めた思いというものを、半世紀後に東京オリンピックを開催する我々が、最大限に継承し、レガシーとして捉え、できれば当時を超えるレベルのコンペティション、競い合いで作品を仕上げていきたいというふうに、強く思いました。
1972年札幌大会は、同じく8名のデザイナーによる指名コンペにより、これは、こちらの永井一正さんの案が選ばれました。
ご覧いただきましてわかるように、亀倉さんの大きなシンボルを絵にしながら、ここ、3つの四角いブロックが重なっておりますけれども、このブロックがいくつにも形を変えていくという、新たなその時代の進化といものが、表せていただいたそうでございます。
1998年長野オリンピックに関しましては、デザイナー個人のコンペティションではなく、デザイン会社でありますとか、広告代理店を対象にしたコンペティションにより、米国のランドーアソシエーツ社の案、こちらの案で決定いたしました。
近年のオリンピックは、エンブレムそのもののデザインの美しさだけではなく、会場装飾でございますとか関連グッズ、動画やデジタルメディアへの展開力というものが必要とされておりまして、IOCからも、エンブレムの作成にあたりましては最も重要なポイントであると、わたくしたちも強調されました。
ご覧いただいてますのは、ロンドン大会の写真ですけれども、ご覧いただきましてわかるように、競技会場から駅、それから関連グッズに至るまで、このオリンピックのエンブレムが展開していくと。
こういったものを見据えてエンブレムを作成してくださいというふうに、IOCから言われております。
こちらが、準備が進んでおりますリオの様子です。
オフィスでありますとか会場ですけれども、すでに、このエンブレムをモチーフにした展開が実施されております。
このロンドンもリオも、個人コンペではなく、最終的な展開案まで含めたデザイン会社間のコンペにより、エンブレムが作成されております。
東京大会では、『全員が自己ベスト』、『多様性と調和』、『未来への継承』という、3つの大会ビジョンを掲げてさしていただいておりますけれども、わたくしたち組織委員会では、ロンドンやリオのようなデザイン会社でありますとか、広告代理店への発注によるエンブレム開発ではなく、国内外のスキルのあるデザイナーの皆さんが、個人の資格で参加いただいて、自己ベストな研鑽を繰り広げて競い合っていただくような、オリンピックに相応しい、我々の大会ビジョンに相応しい、オープンな個人参加のコンペティションにしたいと考えました。
ご覧いただきましたように、エンブレムのデザインだけでなくて展開案まで開発していただくとなると、ある程度スキルのあるデザイナーの皆さんを対象にコンペティションしないといけなくなるわけでございまして、その基準といたしまして、国内外の、こちらにありますようなデザイン賞を複数回受賞されていること、ということを条件に設定させていただきました。
複数回、2回とか2種類にさしていただいたのは、それだけ安定した実力をお持ちであるということの証ではないか、というふうに考えたからであります。
この設定した条件が厳しすぎるのではないか、というご意見もあるようでございますが、繰り返しになりますけれども、展開案も含めたデザインワークとなるため、非常に高度なデザインスキルが必要となるため、参加いただく方のレベルを上げざるを得ないと考えて、こういうふうに設定いたしました。
応募作品につきましても、オリンピック競技の精神にならいまして、自己ベストなひとり1作品、というふうに限定さしていただきました。
以上の応募条件のもと、昨年9月12日から10月10日までをエントリー期間に、そのあと11月11日までを提出期間と設定させていただきまして、賞金〔100万円〕、副賞〔オリンピック、パラリンピック開会式のチケット2枚〕と、武藤総長とも相談して決めた賞金ですけども、金額の多寡ではなく、個人の名誉の争いになるんではないかと思いまして、こういう金額を設定さしていただきました。
こちらの応募要綱に対しまして、結果、イギリス、中国、香港、シンガポールからの各4名、合計4名様を含みます104名の皆さんに応募をいただきました。
この応募作品の審査委員をいただく審査委員の皆さんですけども、東京にはじまる、日本の過去のオリンピック大会の歴史をすべて経験しておられる永井一正さんに審査委員長、審査委員代表になっていただいたことをはじめまして、世代でありますとか性別のバランスを考慮しまして、グラフィックデザイン家を中心にさまざまな角度から審査いただけるよう、人選させて、組織委員会で人選さしていただきました。
ご覧の8名の皆さんです。
永井さんに加えまして、東京アートディレクターズクラブ会長の細谷さん。日本グラフィックデザイナー会長でありまして、東京タイプディレクターズクラブ理事長、特にタイポグラフィー、活字デザインのご造詣の深い浅葉さん。国内外でのブランディングでありますとか、ビジュアルアイデンティティ制作のご経験が豊富で、グラフィックデザインへの造詣の深い平野さん。ニューヨークADC、The One Show、D&DADという、応募資格にもさしていただきました海外のデザイン賞の審査員も歴任されてます長嶋りか子さん。アートディレクター、グラフィックデザイン界からは以上の5名の皆さんにお願いいたしました。
この5名の皆さん以外にも、皆さんが思い浮かべられるような有名なデザイナーの方がどうしてここに名前がないのか、ということも質問、受けたことがあるのですが、その皆さんは全員、ほぼ全員、応募者の方に回っていただいたというふうにご理解ください。
その5名に加えまして、IOCからも重要なポイントであると指摘されてます競技会場、空間などでの展開力を見ていただきたいと思いまして、インテリアデザイナーの片山正通さん。それから、デジタルメディアなど新世代のメディアへの展開力を見ていただきたいと考えました真鍋大度さん。それから、組織委員会の方から、東京招致が決まった、あのプレゼンテーションの映像を制作し、この組織委員会のビジョンの制作にも関わっております、組織委員会クリエイティブディレクターの高崎卓馬。
以上の8名の皆さんに審査員になっていただきました。
選考したデザイン案が、オリンピアン、パラリンピアンの視点でどう映るか、このエンブレムは世界中で、この東京大会を目指していただく選手たちの目標になるべきエンブレムでございますんで、そういった視点で見ていただきたいということで、室伏さん、成田さんに、オリンピアン、パラリンピアン代表として参画いただきました。
こちらが8名の写真なのですが、ご覧いただいておわかりのように、性別、世代、バラエティ、バラエティって言葉、に富んだ、バランスのよい審査委員になったのではないかと考えております。
審査基準としては、特に3点を強調さしていただきました。
- 本大会のビジョンに沿っていること
- オリンピックとパラリンピックの2つのエンブレムが、独自性を持ちながら関連性を担保していること
- 会場装飾、グッズ類、動画・デジタルメディア等への展開力
この3つでございます。
審査委員会は、昨年11月17日、18日の2日間、実施いたしました。
これは都内、審査会場の様子なんですけども、ご覧のいただきますように、テーブルに広く104の作品を置きまして、一個一個に番号が付いていまして、デザイン案に含めまして展開案、それから製作意図というものを説明したものをならべました。
制作者名というのは全部伏せてあります。審査委員の皆さんは、番号しか見てなくて審査をするという客観性を担保いたしました。
各委員の方にチップを持っていただきまして、このチップを残すべきだという作品の上に置いていく、というプロセスを繰りかえすことで選考しました。
こちらが選考の様子でございます。
応募者の中には、ビデオ動画を応募された方もいらっしゃいましたので、このように、みんなで集まってビデオを見ました。
全作品の展開案でありますとか、開発コンセプトなどをじっくり読んでいただいたあとに、1回目は20枚のチップ、2回目は10枚と、決められた枚数のチップをお持ちいただき、必ずしも全部使う必要はないのですが、そのチップの範囲内で残したい作品にチップを置いていく、ということを繰り返しました。
このプロセスによりまして、初日に104作品を37、それから14まで絞り込みまして、2日目に14作品を4作品にまで絞り込みました。
残す数を決めてやったわけではなく、そうすると何個残さなきゃいけないっていうバイアスがかかってしまうので、そういうことは決めずに、シンプルに残したいものを置いてく、置いてくっていうことを繰り返し、結果37―14、14―3というプロセスになったということでございます。
初日は8時間、2日目は4時間かけて審査いただきました。
104作品という規模が少なすぎるのではないか、というようなご指摘もあるようなのですが、単純な多数決、たくさん票が入った人が一番というものではなく、そのデザインが持つさまざまな力、特に、繰り返しになりますけど、競技会場で使ったらどうなるか、商品に使ったらどうなるか、動画にしたら、デジタルにしたらどうなるか、ということを深く考察していただく必要がございますので、2日間というのは、で、やろうとすると、100前後というのは実際問題、限界だったようなふうに考えております。
最後に残ったのは4作品です。
なお、審査委員の皆さんは、この時点でも作者の名前は開示しておりませんので、佐野さんの作品であるということは、が入っているということはわかってない議論なんですけれども、最後の作品の中で投票しましたところ、佐野さんの作品に4票、他の作品に2票、1票、1票というのが、票の上の数字でございました。
ただし、それで佐野さんの案に決めたわけではございませんで、さらに、ひとりひとりが一個一個の作品のいい所、こうしたらもっと良くなるんじゃないかというようなことを議論をしていただきました。
2時間ぐらい議論したと思うんですけど、その最後に、これでいこうって決めまして、1位、2位、3位が決まったというとこで、みなさんでここで拍手しているとこでございます。
審査員代表として全体を、進行も含めてやっていただきました永井さんに来ていただいておりますので、ちょっと、審査の模様をお話いただきたいと思います。
永井さん、お願いします。
永井一正(エンブレムデザイン審査委員代表)
104名の参加者のレベルなんですけれども、先ほど槙さんも述べられたんですけれども、この審査では、誰がどの作品を出したかということはまったくわからなかったんですけれども、別に、あとで名簿をもらったんですけれども、それを見るとほんとに、日本のこれっていうグラフィックデザイナーはもう、ほとんどが全部、参加してくれてるわけですね。えっ、こういう人も参加してくれたんだ、という驚きをもって見ました。
やはり、それだけ2020年の東京オリンピック・パラリンピックへの参加したいっていう意欲と、それとやはり、ほんとに、先ほど言いましたように、6つの日本及び世界のそういうコンペティションの2度以上獲ったというような、そのハードルの高さというものが返ってプロとして安心して出せるっていう、それだけの自信をもって出せるっていうことにつながったんだと思います。
ですから、これだけの個人コンペというのは、先ほどおっしゃったように、わたくしもずっと参加してきましたけれども、冬季オリンピックって、あの札幌冬季オリンピックっていうようなものも、ほんとに指名コンペで、6名、8名という指名コンペでしたけれども、これだけ大規模な個人のコンペティション、しかも質の高いコンペティションというのは、わたくしも知るかぎりで初めてだったと思います。
それから、多数決に頼らずに、最後のことですけれども、もちろん4点までは投票で決まったわけですけれども、4点で徹底的に議論をしたっていうのは、やっぱり今までの審査ではあまり見られない状況だったわけです。4点でいろいろ議論して、この1点はやはり、ちょっといろんな、それは優れていても、展開とかそういうもので少し弱いんじゃないかということでまず1点が落ち、そして3点が、ほぼこれが入選じゃないかという、高レベルのものだっていうような認識を得て、それの、その3点について、徹底的に議論したわけです。
実は、先ほど槙さんが言われたように、点数の多少は相違があったんですけども、それはもう、ほとんど差別がないくらいこの3点っていうのは非常に力作ですし、それぞれがオリンピック・パラリンピックへの参加の意欲、そしてどうしてもこれをやりたいというような意欲に満ちた作品だったわけです。
その中から、その佐野さんの作品が選ばれたわけですけれども、やはり、これはアルファベットを基準としてるわけですけれども、特に東京オリンピックの場合はそうですけれども、やはりそれだけに、僕なんかは少し既視感っていうか、何かが少しはあったんですけれども、それにもまして、やはりひとつの強さっていうか、すっきりしたものがあるっていうことと、それから亀倉雄策さんの東京オリンピック、わたくしの札幌冬季オリンピックをリスペクトというか、そっから、ずっとここまで至る日本らしさと同時に、ひとつの強さっていうか、インパクトの強さがやはり、これが一番優れているんだろうかっていうことで、これに決まったわけです。
ほんとに、選考委員8人がそれぞれ意見を出し合って、ベストを尽くして議論を尽くしたっていうことで、終わったあと非常に爽快感があったという気がするわけです。
ですから、1964年の東京オリンピックの、わたくしもコンペに参加し、あの亀倉雄策さんの、わたくしが落ちたことも忘れて、あれこそまさに東京で、日本で開かれるオリンピックだっていうふうに、目からうろこっていうか、これぞまさにそうだっていうふうに思ったわけですけれども、それを継承して、これは8人のコンペで、札幌冬季オリンピックをわたくしがデザインしました。
そして、それをさらに継承した形で、佐野さんのがいちばん、やはりその継承度っていうか、そういうものも含めて優れていたと。それと同時に、展開例っていうのが非常に優れていたっていうことだと思います。
槙英俊(組織委/マーケティング局長)
ありがとうございます。
控え室でも話していたんですけれども、64年の思い、72年の思いというものを、きっちり2020年にバトンを渡していただいたという審査会であったと考えております。
この審査委員会の決定を受けまして、11月22日に1位、2位、3位案を組織委員会森会長、武藤事務総長に報告をいたしました。
こっからは、受けた武藤総長に話していただきます。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
それでは、審査結果を受けた組織委員会の立場からご報告を申し上げます。
まず、こちらが審査委員会で1位に選んでいただいた佐野研二郎さんの作品でございます。
なお、森会長にもわたくしにも、作者が佐野研二郎さんであるということは発表会の当日まで知らされておりませんでしたので、この時点ではどなたのデザインであるのかはわかっておりませんでした。
佐野さんの案は当初案より、会場装飾やグッズ類への展開案が素晴らしく充実しておりました。
先日の会見でもご披露いたしましたアルファベットの展開のアイディアも、この時点でご提案いただいておりました。
2位、3位の案も拝見いたしましたけれども、佐野さんの案は、特に会場装飾や関連グッズなどへの展開案が非常に素晴らしかったために、仮に次のステップの商標調査で修正を余儀なくされたとしても、1位案のデザイナーの方、つまり、佐野さん自身に案を修正していただくことでエンブレムの完成を目指す、ということが決定いたしました。
その後、IOCと組織委員会で実施いたしました事前商標調査によりまして、若干類似する商標が見つかりました。
ここが非常にポイントなんでございますけれども、若干類似する商標が見つかりましたので、IOCからのアドバイスもあり、この案のまま申請するということは断念いたしました。
制作者に、制作者ご本人に、つまり、佐野研二郎さんご本人に、当初のプラン、特にこのシンプルな形と色、展開案を活かしながら、よりよい形へと改善していただくように、というお願いをしたわけでございます。
そのあと約2ヶ月間、佐野さん自身にじっくり検討いただき、こちらの修正案をご提案いただきました。
ご覧のように、この時点で、先日の佐野研二郎さんのご説明にもあった《Bodoni》という書体の“T”をヒントにしながらも、大きな円、白い、白抜きの円ですね。これが際立つという印象の案でございました。
この時点で、この大きな円が目立ち過ぎているということもあったのでしょうか、また安定性が非常に高まった分、原案にあった躍動感っていうのが少なくなってしまったのではないかと、そういう印象がありましたので、もう一度、さらなる改善をお願いしたわけであります。
そして4月になりまして、今回決定した、こちらの案のご提案を受けたわけであります。
原案のシンプルな力強さ、展開力を維持しつつ、オリンピック・パラリンピックのエンブレムが同じ要素で構成されているという、たいへん素晴らしいデザインに改善されました。
原案から、中央に印象強く配置されておりますこの黒いコラムは、すべての色が集まりますと黒い色になるということから、ダイバーシティを表すと。
それから、その背後にあります白抜きの円ですね。これはインクルーシブな世界を表す。
それから、この赤い点でございますけれども、これは自己ベストの誓いともなる、そのハートの鼓動、これを表しておりまして、この2つのエンブレム、一見まったく違う印象を与えながら、実はオリンピックのエンブレムの黒いところを白に、白いところを黒に反転させますと、パラリンピックのエンブレムになる。パラリンピックのエンブレムの白を黒にして、黒を白にすると、また元のオリンピックのエンブレムになると。こういう、今までおそらくオリンピックのエンブレム史上、まったくなかった工夫がなされているわけで、新しい、まったく新しいデザイン手法がとられております。
発表会の時にもご披露させていただいた写真でありますけれども、ご覧のように街中や関連グッズなどへの展開案も、原案を一層、ブラッシュアップするかたちでご提案いただきました。
そしてこの隠された円、大きな円が1964年の東京大会へのオマージュにもなっているというものでございます。
こういうことで、この提案は、オリンピック・パラリンピックの完璧な連動性、さまざまなメディアへの展開力など、すべての課題をクリアしていただけたというふうに思っております。
組織委員会ではこの案をもって最終案とし、IOC・IPCの内諾を得て、国際商標調査に入りました。
槙さん、このあとお願いします。
槙英俊(組織委/マーケティング局長)
組織委員会の意思が決まったあとになりまして、正式な国際商標調査というものに入りました。世界各国の特許庁に登録されている、あるいは申請されている、全、日本でいくと46業種、あらゆる業種の商標ないしは申請されてる商標をチェックしていくプロセスでございますので、このプロセスは非常に時間がかかりまして、約3ヶ月を要しました。
幸い、このマークに対する類似の商標は見つからなかったため、IOC・IPCから最終的な承認が出まして、商標申請を開始するとともに、最終案を持って、永井さんをはじめとする審査委員の皆さんに個別にご提案・ご提示に参りました。
委員のひとり、平野敬子さんは、真剣に検討し選んだものは、いちばん最初の原案であるので、ここについてはそのプロセスを経ていないということで、ご承諾いただけなかったわけでございますが、残りの7名の審査委員の皆さんにはご承諾いただきまして、組織委員会でも最終決定し、冒頭申し上げました7月24日金曜日、大会5年前となる夜に、オリンピック・パラリンピックの両エンブレムを発表さしていただきました。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
ありがとうございました。
以上のような過程を経て、大会エンブレムが完成したわけであります。
原案はご覧のとおり、“T”を強調したデザインになっておりまして、リエージュ劇場のロゴにあります右下のパーツですね。
リエージュ劇場のは、黒いコラムの右下にヒゲのようなものがあるわけでございますけども、そのパーツはございません。
原案は、リエージュ劇場のロゴとはまったく別物ということがおわかりいただけると思います。
修正案は、逆にこの白抜きの円というものを強調したデザインとなっておりまして、ベルギーのロゴにはありません、無いのは左下のパーツですね。この部分が付加されております。
この修正案も、ベルギー案のロゴとは別物であったということがおわかりいただけると思います。
この案に対して、躍動感というものをどのような与えられる、与えたらいいのかという観点から、この左下のものを取った、そのパーツを取りますと、このような最終案になったわけであります。
こういうことでございますので、当初から“T”と“L”を組み合わせたベルギーのロゴの成り立ちとは、デザインプロセスがまったくことなることがおわかりいただけると思います。
東京2020のエンブレムはこれに加えまして、まず第一に大会ビジョンというものを、多様性と調和、ひとりひとりの鼓動・パッションといったような理念を表している、ビジョンを表しているということが第1点であります。
第2点は、繰り返しになりますけれども、パラリンピックのエンブレムとオリンピックのエンブレムが対をなしている、相互にインテグレートされてるという従来にない工夫がなされていること。
そして第3番目には、展開力というものを当初からイメージしていたということでありまして、リエージュ劇場のロゴマークにはまったくない特徴がいくつもございます。
このため我々は、大会エンブレムのデザインはオリジナルであるというふうに確信をしているわけであります。
この点について永井先生、いかがでございましょうか。
永井一正(エンブレムデザイン審査委員代表)
いま武藤総長がおっしゃったとおりなんですけれども、我々がいいデザインかどうかっていうふうに思う時に、それはひとつは思想性っていうか、その考え方、根本的なコンセプトがまず第一です。それから、美しさとか造形性というものがそれに伴うわけですけれども、それと、このようなオリンピック・パラリンピックのような場合はあらゆるところに使われますし、また、デジタルメディアにも使われるわけですから、その展開力っていうかそういうところ、拡張力とかそういったものが求められるわけです。ですから、それを全部クリアできるかどうかということが、このエンブレムのいちばん条件になってくるわけです。
佐野さんのこのエンブレムっていうのは、その条件をすべて満たしてくれてるわけです。
それといちばん、このほかの人たちのエンブレムを見ても、これはオリンピックとパラリンピックを並列でならべて、我々は審査したわけなんですけれども、それの整合性っていうことがいちばん、やはり難しかったというか。
要するに兄弟のような関係で、関連性はあるんだけれども独自性がないとダメだということで、ある人は関連性の方に寄って少し似通ってしまった。ある人は独立性でちょっと、まったく違ってしまったっていうような感じなんですけれども、この最終案に僕が同意したっていうのは、その関連性というか、オリンピックとパラリンピックの関連性が実にうまくいってると、これ以上にうまくいってることはめったに今までの例でもないわけで、先ほど武藤総長もおっしゃったように、これが黒と白とを反転すればそのまま重なると。しかもTOKYOの“T”であり、TOMORROWの“T”であり、TEAMの“T”であると同時に、それはパラリンピックの場合はまさに平等、イコールだっていうことが強調されてると思います。
この相互の関係性というのが非常にうまくいってるということで、だと思います。
それと、これが実は、日本の1964年の東京オリンピック、そしてわたくしの札幌冬季オリンピック、そして今回の2020年の東京オリンピックと、非常にこう、順次時代を追って、それぞれの先端をいっているということです。
亀倉さんのオリンピックは、いえばいろんなところに展開はしたんですけれども、今ほどそういうデジタルメディアもないし、展開をする必要がなかったわけですから、非常に静止したもので、それはそれでインパクトの強い、素晴らしい作品だと思います。
しかし、わたくしの場合はこれが3つの、実は、上と中央と下とっていうふうに分かれるわけです。
ですから、実際に使われたのは、これがたとえば横に使われないといけない時は横位置に並ぶとか、あるいは四角にしてしまって、ひとつに何かを入れるとかっていうような可動性っていいますか、そういう分割っていうことがここで始まったわけです。おそらく、この時はシンボルマークって言ってたんですけど、エンブレムでこういう可動性のものを持った、したのは初めてだと思います。
佐野さんのはまさに9分割してあるわけですね。わたしのは3分割ですけれども、佐野さんのは最初の案からこれに至るまで、9分割ということがポイントになってるわけです。
そして9分割するとどういうことが起こるかというと、それがいろんな、たとえば先ほど示されたアルファベットになったり、数字になったりという、このパーツの動かし方によってさまざまと変化が可能になってくるわけです。ですから、その9分割でやったというのも、ひとつのこれがポイントであって、そういった意味ではベルギーの劇場のマークとはまったく違うわけで、あれは9分割ではなくて、どう分割してもまったく違うもので、その発想から思想から、そして造形からして全部違うっていうことがいえると思います。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
どうもありがとうございました。
最後に、わたくしからひとこと申し上げたいと思います。
わたしはこのリエージュ劇場のロゴにつきましても、シンプルでたいへん素晴らしいものだというふうに思っております。
残念ながら現時点では、裁判という関係になってしまっておりますけれども、こちらのデザインプロセスをただいま詳しくご説明いたしましたが、我々のエンブレムに込められた理念をご説明し、オリジナリティーをご理解いただければ、お互いがお互いのエンブレムをリスペクトする関係になるのではないか。そういうお互いのエンブレムをリスペクトする関係が、1日も早く来ることを願っているわけでございます。
わたくしどもからは、以上でこの説明を終わらせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。
質疑応答
藤澤秀敏(組織委/広報局長)
それではご質問をお受けいたします。申し遅れましたけども、広報局長の藤澤です。
ご質問のある方は挙手ねがいます。わたくしの方で指名いたします。指名されましたら、そのまま手をあげておいていただけますか。マイクが参ります。ご所属、それからご氏名、さらに誰に対する質問かということをおっしゃってください。たくさん質問があると思いますので、原則1問ということでよろしくお願いいたします。
それでは、その最初に挙げられた女性の方。
日本テレビ(クノムラ)
選考の過程は充分わかって、盗作・盗用ではないこともわかった上でなんですけれども、でも、やはり国民の印象として、やはりそういうイメージがついてしまったということについて、どう受けとめていらっしゃるかと、今後そういうイメージに対して、どういうふうに、こう、改善といいますか、していかれるつもりかという点をお伺いします。
事務総長にお伺いします。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
わたしどもの考え方は、いま、縷々、ご説明いたしましたとおり、独自の発想で作られた、たいへん力強くシンプルなデザインであるというふうに確信をしているわけでございます。
いろいろな経緯はありますけれども、わたしどもはこれを国民の皆さまが引き続き使っていただくように、いろんなかたちで努力をしていきたいというふうに思っています。
永井一正(エンブレムデザイン審査委員代表)
ぼくもちょっと。
わたくしのグラフィックデザイナーからの立場から言えば、これだけの優れた展開力に富むデザインですから、このエンブレムがいろんなことに使われだすと、国民の人たちも「なるほど」っていうふうに納得していただける。
今はこれ単独で議論されてますけども、展開はさまざまにされていきます。そうすると、これの良さが国民の人たちにも浸透していき、良さがわかっていくというふうに思っています。
朝日新聞(ミヤジマ)
永井さんにお伺いします。
えっと、わたし素人なんですけれども、いちばん最初の佐野さん案、ぱっと見た感じ、どちらかというと「円」というよりも「三角の直角」の方が印象的だなと思ったんです。
実際にその修正を加える中で、円がものすごく大きなイメージを持つ作品になったということで、まったく最初と違うんじゃないのかなと思うんですけれども、これでも佐野さん案といえるんでしょうか。
これは素人から見るともう、組織委員会との方でやり取りする中で生まれた、佐野さんの原案とはまったく違うんじゃないのかな、と思うんですけれどもいかがでしょうか。
永井一正(エンブレムデザイン審査委員代表)
最初からパーツっていうのは、まったく動いてないわけですよね。たしかに、途中のところにひとつパーツが増えて円が強調されたという課程はあるんですけれども、結果としてはまったくパーツは動いただけであって、そしてやはりイメージは変わらないで、それとパラリンピックとの整合性っていうのが、最初よりもずいぶん良くなったというようなことで、これに収まったわけですから。
もちろん、厳格に言えば最初とは違うんですけれども、パーツの動かし方っていうことと、よりそれが精緻化され、ひとつの世界を表現する上において進歩した。
ですから、組織委員会とのいろんなやり取りの中で、彼自身も非常に時間をかけて、その前も時間をかけてるんですけれども、それ以上に時間をかけて、非常に一生懸命デザインをしたっていう成果がここに出てるんじゃないかというふうに捉えてます。
よろしくお願いします。
ほんとはいくつも疑問があるんですけれども、ひとつということでお願いします。
オリジナルの案が、いろいろ調べたところ、ちょっと似たようなものがあると、問題があったということで修正を加えたというお話だったんですけど、結局いちばんはじめに、その似たようなものがあるという段階で、もう失格のような気がするんですけども、これを受けてほかの2案も公表された方がいいのではないかと、永井先生も朝日新聞のインタビューでそう言われてるんですが、ほかの2案の公表の問題と、パラリンピックの佐野さんのオリジナルの作品というのを公表されないんでしょうか。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
まず、最初のオリンピックの案が類似なものがあるということについては、これは登録された商標を調べた結果、類似なものがあるとわかったわけですけれども、最初にご説明したとおり、圧倒的に佐野さんの作品がいろんな意味で、縷々、ご説明がありましたような、いろんな意味で優れていると。
この商標の調査に入りますと、過去の経験では類似のものが出てくるということがよくある話なんですね。その場合でも、これを使い続けようということを最初に決断いたしました。
2位、3位のものを公表しないのかというお話ですけれども、これは我々は、1位のものを今後とも使い続けたいというふうに思っておりますので、2位、3位のものを公表するのは適当ではありませんし、IOCも、これは基本的に公表しないということになっております。
それから、パラリンピックにつきましては、現在、パラリンピック自身のエンブレムについては特段問題になっていないわけでございます。
わたしどもがこのパラリンピックのエンブレムを持ち出しておりますのは、全体としてコンセプトができあがっていると、最終的なものはですね。そういうことを、ご説明するために持ち出しているわけでございますけれども、パラリンピック自身が訴訟の対象になっておりませんので、これはIPCの方もそれを、結果を出せば充分であるということで、その原案を公表するということはしてないわけであります。
東京MX(スズキ)
武藤事務総長にお伺いいたします。
佐野さんのエンブレム以外のデザインにも、いろいろ話題になっていますけれども、今日から枡添知事の会見室にもこのエンブレム、飾られるようになりました。
昨日、枡添知事が「この佐野さんの信用が落ちていくことが、エンブレムのイメージを悪くしていく」と。「開催都市の組長としてかなり、きわめて残念なことだ」とおっしゃっているんですけども、これに対する受けとめと、どう理解を求めていくかということをお伺いさせていただけ...
武藤敏郎(組織委/事務総長)
枡添知事のご発言は、どういう文脈においてなされたか、わたし存じあげておりませんけれども、基本的に組織委員会と同じ考え方でございます。知事がそれ以外のお考えをもってるというふうには、わたしは承知しておりません。
これをこれから長い間にわたって使うわけでございますけれども、先ほどの話がありましたとおり、さまざまな展開をしていくことになります。
その中から、その展開力ということと同時に、このエンブレムの素晴らしさっていうものを、国民の皆さまにできるかぎりお伝えするように我々が努力していきたいと、そういうふうに思っているわけであります。
報知新聞(エバタ)
武藤さんにお伺いします。
9月22日に、そのベルギーでの裁判が始まるということですよね?そこで組織委員会側の人間は、どなたが行かれるんですか?武藤さんとか、森会長が出廷されるってこともありうるんですか?
お願いします。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
現在、リエージュ劇場の方の訴えております対象、相手方はIOCでございます。ですから、IOCが対応されるということで、我々は当事者になっておりません。
もちろん、IOCと我々の間で情報交換は密接にし、必要なことはIOCに協力していくつもりでございますけれども、そういう状態でありますので、裁判に関しましては我々が登場するということは考えておりません。
日本経済新聞(スズキ)
武藤さんにお伺いしますが、先ほどから「国民の理解を得るために展開力を」というお話がありますけども、それについてもう少し、たとえば具体的にどういったかたちのものを、いつ頃、見せていくようなスケジュール感を、もし決まっていたら教えていただけますでしょうか。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
たとえばグッズ関連ですね。そういうものは10月頃には実現したいというふうに思っておりますが、現時点ではちょっと、具体的な日にちを申し上げるような状況にはなっておりません。
さまざまなことが考えられますので、その利用の仕方については考えておりますが、このスケジュールまで含めて何日にどうする、というところまでは、まだ申し上げられるような状況にはなっておりません。
いずれにいたしましても、あらゆるところにこれを展開するという可能性があると我々は思っておりますので、一般国民の方々のご理解が得られるように、最大限の努力をしていきたいというふうに思っております。
AFP通信社(イトウ)
どなたでも結構です。
確認なんですが、訂正する過程の中で審査委員なり第三者の方がデザイン自身を、何かこう、手を加えるとかこんな風にしたほうがいいんじゃないかとか、そういう具体的なデザインに手を加えたような過程があったのか。それともすべて彼がやったと考えていいのか。
どうでしょうか。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
ひと言で申し上げれば、いまのお訊ねに対してひと言で申し上げれば、すべて佐野さんが決めたことであります。
我々は、類似のものがあるので少しお考えいただいたらどうかとか、そういう訂正的なことを申し上げたと。
したがって、作られたものはすべて佐野さんが自らのものとして作られた、というふうにご理解いただいて結構でございます。
共同通信(マエヤマ)
武藤さんだと思うんですけれども、お話、伺いたいんですけれども、こないだの佐野さんの記者会見の時に、今日お話しされたことを最初にお話しになれば、盗用ではないということが明白だったと思うんですけど、なぜその時に公表されなかったのか教えてください。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
誠にごもっともなご疑問だというふうに思います。
わたしどもは最初に申し上げましたとおり、非常に特殊な訴えがなされている状況にあるんですね。
被告はIOCであり、リエージュの裁判所に起こされていて、我々は現在、このエンブレムの所有者は東京2020組織委員会であるということであります。
常にこの関係で、いろんな意見交換をしながらやっていくわけでございますけれども、訴訟に応える当事者はIOCでございますので、我々の発言なりなんなりが、その訴訟にどういう影響を及ぼすかということについては、そういう観点から、IOCのご理解・ご了解が必要になるわけであります。
今日でも、訴訟は依然としてIOCが引き受けておられますので、我々はギリギリのことしかできないわけでありますけれども、しかし、ご指摘のように、いつまでも放っておくのは適切でないということから今回、このご説明に踏み切ったわけでございます。
そういう意味では、もっと早くするべきだったとわたくしも思っておりますので、その点は率直にお詫びしたいというふうに思っております。
槙英俊(組織委/マーケティング局長)
あと、ひとつ大きな違いといたしまして、8月5日の時点では問い合わせのレターが来てたんですけれども、いわゆる訴状というところには、まだのってなかったんですね。
それがひとつと、それから基本的に、世に申請の、あらゆる団体に確認を経て合意されたマークはこうやってお見せしてますけれども、今日、総長のご判断もあったわけですが、世に問わないかたちの過程のマークをお示しするというのは、ある疑問に答えようというこちらの意思でもあるわけですけども、それをやろうということについても、現時点での訴状というのが明快になりましたので、昨晩までIOCとも詰めまして、こういうかたちであれば、むしろ日本の皆さまの疑問を解く方が優先だろうというような議論の末に出さしていただいてます。
したがって、8月5日の時とはそこがちょっと、状況が変わったというふうにご理解ください。
NHK(マツイ)
コンペの中から1位、2位、3位を決めて、1位の原案の佐野さんのものに修正を2、3加えたということなんですけれども、修正を加えるという時点で2位、3位のものにしよう、2位、3位のものに戻ろうという考えはなかったんでしょうか。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
それは、ありませんでした。
得票数からみても、佐野さんの案がもう審査委員の圧倒的な支持を得ているもんですから、それを前提にやっていこうというのが当初からの我々の対応方針であったということであります。
槙英俊(組織委/マーケティング局長)
あと、先ほど武藤も申していましたけれども、このエンブレム、5年間にわたっていろいろ展開していって、いろんな場面で使っていくものなわけですが、その展開力っていうところが、きょうも、いちばん最初の案の時の展開もあえてご覧いただきましたけれども、提案の時点であそこまでご提案いただいてました。
ということで、商標のところで何か変更が必要になったとしても、この展開力というのは圧倒的なので、この案、この方に可能なかぎり対応いただこうということが、いちばん最初の組織委員会の中の会議で決断されました。
したがって、2位とか3位には行こうということにはなりませんでした。
日本経済新聞(ヤマグチ)
槙さんにちょっと、お伺いしたいと思います。
今回のこのエンブレムを使って、東京大会のスポンサーになられてる企業の皆さんは、このエンブレムを使って、プロモーション活動なり、CM活動を行われると思うんですけれども、現時点でスポンサーからの問い合わせはどのようなものがあるか、また、そのスポンサーさんがこのエンブレムの問題が起きたあとに、エンブレムの使用について何か自粛なり支障をきたしているというようなお話はあるでしょうか。
あと武藤さん、先ほどおっしゃった「10月ぐらいにグッズ関連などを発表したいと思っているが、現時点ではそういう状況になっていない」とおっしゃったのは、当初の予定どおりだけれども、まだスケジュール的に現時点ではそういう状況になっていないという意味なのか、この件が起きたことによって現時点では遅れてるという意味なんでしょうか。
槙英俊(組織委/マーケティング局長)
スポンサーの皆さんからは裁判になったということで、どういった状況にありますかといった問い合わせはいただいております。
我々としてはきょうもお話しておりますけれども、正当性があると考え、使い続けるということを回答しております。このやり取りはあります。
どちらかの調査で9割の方が使い続けると出てたと思うんですけれども、まったくそのとおりでございまして、いろいろな、スポンサーのキャンペーンなんで、ここで「こういうのが来てる」とは言えないですけれども、秋口から積極的なキャンペーンで使っていただくための相談であるとか、すべての使用について承認を得ていかないといけないので、その申請であるとかは続々来ております。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
グッズにつきましては当初の予定どおりでございます。具体的な日にちが決まっていないと、そういうことを申し上げたわけであります。
日本テレビ(ゴトウ)
永井さんにお伺いしたいんですけれども、先ほどのお話の中で、最初の原案の方で危機感、危機感はあったが、強さ、すっきりしたものはあるというようなお話をされてたんですけれども、その危機感っていうのはどういう危機感だったんでしょう。
永井一正(エンブレムデザイン審査委員代表)
つまり、タイポグラフィーとか要するにアルファベットですね。
アルファベットを下絵にした場合には、やはり実際には、たとえば“T”っていうのはいろんな書体があるわけですね。しかし、そのパーツが少し違えば、セリフが少し違えば、違う書体として認知され、かつ、著作権がそれぞれ持っているわけです。
しかし、一般の人が見ると同じように見えるって、だからやっぱり“T”っていうのが非常に強調されていたわけですから、やはり今までどこか、見たことがあるような感じがするっていうのは否めないと思うんです。
ですけれども、それは決して著作権上の独自性とは関係なくて、やはり“T”っていうことで、今まで“T”っていうのは古来から無数にあるわけです。バワーズとか、ロシアアバンギャルドとかっていうようなところでも、そういう“T”っていうのが、とか、あるいはアルファベットを下絵にしたデザインていうのはあるわけですから、どうしてもアルファベットとか、それから丸とか三角とかを使うと、何か少しは似たような感じがするっていう意味でそう申し上げたわけで、これが独自性が無いという意味ではなくて、“T”ということに対するそういう感じです。
NHK(ナゴシ)
永井さんにお訊ねしたいと思います。
デザインの世界では「当初案のものであっても組織委員会等で手が加えられることもありうるんだ」というお話があったかと思うんですけれども、そのあたりが逆に、一般の方にはおそらくわからないので、いろんな疑念を生んでしまうんだと思うんですけれども、オリンピックのような大きな大会であってもそういう手を加えることが、デザインの世界ではありうるのかということと、あとたとえば、その札幌の冬季五輪のデザインを永井さん、担当されましたけれども、札幌冬季五輪のあのデザインは、当初永井さんが考えられたものとは違うものになっているのかどうか、お話いただけますでしょうか。
永井一正(エンブレムデザイン審査委員代表)
いえ、まったく今までは、亀倉雄策さんのエンブレムも、わたくしのエンブレムも、提案どおりだったわけです。
ただ、手を加えることがありうるのかっていう、デザインの世界で。ご質問に対しては、それはありうることです。
たとえばクライアントの関係、あるいは企業でも、大きな企業では、やはり世界の商標を取らないといけないわけです。
つまり商標っていうのは、商標権っていうのは、で、いろんなものが守られてるということですから、それを全部取らないと、大企業のマークでも当然、オリンピック・パラリンピックのような大きな場合は必要になってくるわけです。
その時に少し、やはり似たものが出てくるというのは、先ほど申し上げたようにアルファベットとか、丸とか、四角とか、三角とかっていうようなものを基本にしたものは、そういうことに少し、なりがちなわけです。
だけれども、そういうシンプルな形っていうのは、やはりエンブレムとかシンボルマークっていうのは必要なわけで、複雑になればなるほど弱くなるわけですし、展開力も複雑になって弱くなってしまうわけで。
やはりひとつのエンブレムとかマークのような場合は、ひとつの強さと同時にそれが増幅されていく、拡張していくっていうことが必要なわけで、出すたびにそれがさらに良くなっていくと、展開するたびにさらにそれが、良さがわかってくるということが重要なのです。
ですから、どうしてもアルファベットとか、丸とか、四角とかっていう非常にシンプルな形にデザイナーがやろうとするわけですけど、そうすればするほど、何かちょっと似たようなものが起こってくるっていうことがありうるわけです。それを修正を加えて、やはり独自のものにしていくということになるわけです。
槙英俊(組織委/マーケティング局長)
あと、先ほども確認させていただきましたが、修正は組織委員会ではやっておりませんで、佐野さんにお願いして直していただいてます。
組織委員会からお願いしたのは、ここをこうしてくれってことは一切やっておりませんで、「類似の商標が見つかってきたので変えてください。ただしコンセプトは守ってください。展開案が評価されてるので、展開力は守ってください」というようなこちらの条件、条件というか新しいお願いだけをお伝えしまして、それで新たに出していただいたということを2回、繰り返したということでございます。
朝日新聞(オオニシ)
繰り返しになりますが、武藤さんにお願いしますけども、佐野さんの最初の案が似た理由は何かということをお聞かせください。
槙英俊(組織委/マーケティング局長)
すいません。
実際の商標と、IOCとやり取りしたのはわたくしなんで、わたくしが答えますと、かなり用心した上での判断でして、ある国のある会社の登録されてる商標が四角と三角と丸で構成されてたと。その配置がひょっとすると同じと見られるかもしれないと。正直ぼくらの方は、これが類似になってしまったらこのあと商標通過は難しいかな、と思ったんですけれども、IOCと我々のビジネスというか、商業化のところについては、あらゆるスポンサーのあらゆる国の活動に耐えなきゃいけないことですので、少しでも疑わしいと思ったらやめておこうという判断でした。
したがいまして、類似マークが出たからやめたということではなく、同じような要素をお使いになって登録してる方がいた、という判断でした。
これ、おそらくオリンピックにかぎらず商標を取っていこうという時のご判断として、各国の特許庁とかでやられてる方のご判断の方が客観的かもしれませんけれども、特にIOC、わたくしどもは、世界中、全世界津々浦々で、しかも先ほど申し上げましたけれども、飲料から車から、すべての業種においてクリアではなきゃいけないので、可能性があるんであればやめようという程度の判断でした。
日刊スポーツ(ミス)
先ほど、森会長に報告されたのが11月22日とおっしゃってましたが、その後の詳しいスケジュールがもしわかれば教えていただきたいんですけど、たとえばその、一回目の修正案をお願いした日付と、一回目の修正案が提示された日付。さらにはもう一度、躍動感がなくなったということで二回目の修正をお願いしてますよね?その修正を依頼した日付と、今の完成版が届いた日付ってのをわかればうれしいんですが。
槙英俊(組織委/マーケティング局長)
すいません、日付は思い出せません。隠すわけじゃないんですけど、いまこの場では思い出せませんので、あとで…えーっと。
やり直したの12月中旬とか、ザクっとは覚えてますけど。
やり直してくださいと伝えたのは12月の中旬、年末前だったと思います。次のアイデアがあがってきたのが2月の中旬?初旬だったと思います。最終案があがってきたのが4月の上旬だったと思いますが、ごめんなさい、日付まではこの場では思い出せません。
日刊スポーツ(ミス)
というのは、たしかに今日のご説明で原案がリエージュ劇場とまったく違ったってのはわかったんですけども、その間にブランクがあるわけですよね?その中で、言い方は悪いですけど、さまざまな情報が、佐野さん、見れると思うんですね。
その中で、見たかどうかは別にして、徐々にリエージュ劇場のものに似てきてしまっているのは事実じゃないですか?
となると、その原案はたしかにちがったってことはわかったんですが、その修正の過程で何かがあったっていうのを排除するのは、ちょっと難しいのではないかと思うんですけども、それについてはどうでしょうか。
武藤敏郎(組織委/事務総長)
いま、縷々、申し上げたような論理の変化があって、それでものが出てきたということなんですね。それをおわかりいただければ、厳密に言えばその間になんかどっかで見たんじゃないかとかって、そういう議論は否定できないと思います。それはむしろあったということを言ってもらわないと、何も無かったんだということを我々から証明するっていうのは、これは困難だと思います。
しかし、論理が非常にはっきりとした上で変わっていくわけですから、そこに何かが、他のものが入ってくる可能性はきわめて低いだろうということを申し上げるために、この展開を申し上げてるわけなんですね。
結果的に最後のものが似たかどうかということはあるかもしれませんけども、我々はそれもすべて、なぜそうなったかということを説明してるわけなので、そこをご理解いただければオリジナリティーというものにつながるのではないかというふうに思っているわけです。
永井一正(エンブレムデザイン審査委員代表)
我々グラフィックデザイナーから見ると、もうまったく違うものだっていうことがはっきり言えるわけですけれども、少し似てるっていう意味では、全世界を探っていくと、どんなものでも少しは似たものが必ず出てくるわけですから、普通の場合はこういうことは問題にならないんですけれども、ものがオリンピックっていう、たいへん、全国津々浦々までいくものですから関心も高くて、そういうものが出たということで、これはもう偶然に少し、少ししか似てないんですけれども、わたくしは違うものだと思いますけれど、少し似たというのはまったく偶然だというふうに思っております。
TOKYOFM(スズキ)
槙さんにお訊ねしたいんですけども、先ほど、「最終案を各審査員に示したところ平野さんだけ承諾をいただけなかった」というご発言があったと思うんですが、その後、平野さんから承諾がいただけなかった部分について、結果として総意じゃなかったということになるかと思うんですけど、おひと方から承諾いただけなかったという部分を、組織委員会としてどのようにご判断されて最終案の公表に至ったのか、そこの部分を改めて詳しく説明していただけますか。
槙英俊(組織委/マーケティング局長)
平野さんは、先ほども申し上げましたけれども、ご自身で時間をかけて選んだのは最初のエンブレムですので、あとから出て、時間もかけられてないので承諾いただけなかったと。そのことは組織委員会の中でも伝えまして、ただ、残りの7人の方、ご承諾、永井先生も含めてですけれども、ご承諾いただいたということで、審査委員会としてはご承諾いただいたということを判断いたしまして、先に進めました。
日本放送(ゴトウ)
先ほどからの話で何度か、シンプルであることや、その展開力があることを強調されてます。
そうするとどうしても、展開して同じようなデザインというものが出てきて、今回のような裁判を含めた訴えが出る可能性っていうのを、はじめから想定されていたんでしょうか。もし想定されているんだとしたら、今回、こうやって起こってることは、ある程度想定内だったといっていいんでしょうか。
教えてください。
槙英俊(組織委/マーケティング局長)
商標を確認するというプロセスは、先ほども申し上げたように、全業種に関しまして世界で3ヶ月かけてやりますと。
これは、このマークを使って商業利用しようとか、商行為をやろうという世界の方々の、お互いのビジネスを邪魔しないようにしようというための措置であると考えます。
したがって、そこを全部つぶしていこうと、確認しようというのがIOCの、大会ずっとつづいてますから、IOCの、我々に対するガイドラインでもあり、我々もそれに準拠してやって、世界中でマークを使って商売されている方の、登録ないし申請しているマークには似てるものがなかったということで発表しております。
たいへん残念なのは、リエージュの劇場のロゴが商標登録されてなかったということで、ひっかかってこないわけでして、そのマークをもって、こちらのことの侵害になるというクレームが出るというのは、非常に稀なケースであろうと思います。
防ぎようがないといったら言い過ぎかもしれませんけれども、世界中でビジネスをやろうとしている方のマークを侵さないようにしようという確認をする。これがIOCのルールでやっておりますので。はい。
AP通信(ヒトミ)
たとえばなんですがこれ、裁判の結果によっては、いまこのまま続けるという決断、変化はあるんですか?何らかの要素があると、この使い続けるというご決断には変化はありますか?
武藤敏郎(組織委/事務総長)
きょうのお話は、わたしどもはこういう理由でこれがオリジナルなものであり、これを我々としては大事にしていきたいと、国民の皆さまの理解を得て利用を続けていきたいというふうに思っております。
それがすべててございまして、このオリジナリティーの論拠というものをご理解いただければ幸いだというふうに思う次第であります。
フジサワ(組織委/広報局長)
ありがとうございました。
それでは、これで記者ブリーフィングを終わらせていただきます。
どうも、ありがとうございました。